だから社会生物学者は嫌われる

以下、社会生物学者と呼ぶか、進化心理学者と呼ぶか、行動生態学者と呼ぶか迷いましたが、本のタイトルに沿って「社会生物学者」で統一しました。語弊があるかもしれなけど。
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社会生物学の勝利―批判者たちはどこで誤ったか
前から気になっていたけど、やっと読みました。
なんか、この本を読むと「98%チンパンジー 」の筆者じゃなけいけど

「だから社会生物学者は嫌われるんだよー」

と思ってしまう(苦笑)

社会生物学は論理的で、正当な科学だ(細かい部分はおいておいて、基本的には)。
それなのにグドールをはじめとする社会生物学の批判者達は、社会生物学を「非論理的で正当な科学ではない」と批判した。
彼らは批判すべき点、批判する方法を間違えたと思う。
だから社会生物学者に「勝利」されてしまったのだ…

社会生物学の批判される点は、

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「98%チンパンジー」 p.378
科学者は「科学は万物について多くのことを説明してきた。あなたの生命には意味がない。それではまた」と言う。そして彼はその哲学に反対する人々の拒絶にあって驚き、愕然とする。
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まさにここ。
社会生物学者は無邪気に、普通の人々の心の平安をかき乱し、傲慢にも

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「社会生物学の勝利」 p.226
実際、盲目的な進化のプロセスが私たちを作り出したのであり、私たちの無意識的な目的は、粘菌やツチブタや松ノ木やミミズのそれとかわりがないとは、ほとんどの人々には信じがたいことだ。こんなことは確かに受け入れがたいが、それでも真実なのである。
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とのたまう。
べつに社会生物学に限らず、科学は必ずしも人間を幸福にはしない。
それでも科学の発展が支持されるのは、デメリットを上回るメリットがあるから。
交通事故が増えても車が作られ続け、被爆者が出ても原子力発電所が稼働し続けるのも、デメリットを上回るメリットがあるから。
メリットがデメリットをうわまっているかどうかは、個々人の価値観によって異なるけど、それでも少なくとも多くの人が「科学技術の発展にはデメリットだけではなくメリットもある」と思っているのは確か。
それに引き替え社会生物学はどうだ。
人の心の平安を乱し、政治的に悪用されるというデメリットに対して、どんなメリットがあるのか?
社会生物学は「マイナス」の大きさの割に「プラス」が見えない学問だ。
少なくとも、研究対象を「人間」にした場合。
(対象が「ウィルス」なら十分有用だけど、ほとんどの批判者がやり玉にあげているのは「人間」を対象とした研究)
その認識が、社会生物学者の側に乏しいのでは?

でもこの本を読むと筆者達が社会生物学にはまった理由も少しわかる。
社会生物学が人間を対象にした時、それは(特にキリスト教圏の)旧来の人間観、価値観、世界観をたたき壊す。
そこに広がった新たな世界を「新天地」と思うか、「荒野」と思うかで、社会生物学に惹かれるか、批判者になるかにわかれるんだろう。

もともと「人間vs人間以外の生物」という二分法の世界で生きていない人間には、社会生物学の知見に触れてもこんな衝撃ない。
「私の前世はミミズだった」「私はイヌだった」って人々が言い合う世界で、「私たちの無意識的な目的は、粘菌やツチブタや松ノ木やミミズのそれとかわりがない」って言われても「ふーん」だよ。
キリスト教徒(というか一神教徒か)が受けるほどの衝撃はない、多分。
(こういう単純な東洋vs西洋で捉えてしまうのは、よくないけど。)

そう、ちょっと気になるのはこの手の話って、キリスト教圏のものしか伝わってこないけど、イスラム教圏の人は社会生物学とか進化心理学をどう捉えているんだろう。
私の知っているマレーシアのイスラム教徒達は、結構いい加減でアニミズムに近い部分も持っていたから、社会生物学や進化論も適当に聞き流している感じだったなぁ(そもそもイスラム教の教えをどの程度心の底から信じているのか、疑問。単なる生活習慣と化しているような人もいるし)。
けど、厳格な中東のイスラム教徒は違うだろうし。
このテーマに関する本も今度探してみよう。


社会生物学者は論理的で科学的な研究をしている。
でも(少なくとも人間を対象にした研究は)人間を幸福にしていない。
社会生物学の批判者達は、ここを責めるべきだった。
なのに彼らは、社会生物学は「論理的でなく」「科学的に正しくない」と批判した。
だから、批判者達は負けて当然。

というのは、まあ1990年代までのお話でしょう。
今はやっぱりこの点を批判者達に突かれていると思う。
「進化心理学の有用性とは?」
人の行動、心理の進化的な側面を理解することは、「役立つだろう」と言われてはいるけど、やっぱり未だに説得力のある(その主張を納得させる)研究や応用例って少ないよなぁ。
まあ何より社会生物学で、研究対象を人間にしない研究者が圧倒的に多いし。
研究対象としてきれいな結果を得にくいし、研究手法に倫理的な制限が多いっていうのもあるけど、「やっかいごとに関わらずに研究に集中したい」って人も多いんだろうなぁ。
(実際、そういう話を耳にするし)

というわけで、次はこれを読んでみようと思ってます。
「愛する人を失うとどうして死にたくなるのか 「《うつ》から自殺へ」を「生きよう」に変える力」
下園壮太 著 文芸社

このブログを読んで、興味を惹かれたので。
この上ない悲しみと覚悟の進化心理学

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