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zoom RSS 【読書】 「マザー・ネイチャー」

<<   作成日時 : 2011/10/26 17:35   >>

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分厚い上下巻なので、ずっとつんどくだったのですが、今月は国内出張が多かったので、移動中に読み切りました。(重かった…)


マザー・ネイチャー (上)
早川書房
サラ・ブラファー・ハーディー

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上巻は結構おもしろかったけど、下巻はイマイチ。
もう少し内容を整理して、1冊(1巻)でまとめられなかったのだろうか。

目からウロコだったのは「ヒトの母親は子どもを選別するが、サルの母親は子どもを選別しない」という話。
「その子が最初に母親をつかめたならば、サルの母親は根気強く面倒を見る」(上巻p240-241)
ちなみに哺乳類の中でも、ここまで無条件に子どもを育てる(子の切り捨てを行わない)のは、むしろサルだけ。
ネズミなど他の動物では、母親が一番小さな子が弱い子を切り捨てるのは普通。

人間では昔から、出産直後に一目で障害があるとわかる子は、殺されたり捨てられることも珍しくなかったし、現代でも障害のある子は、虐待や育児放棄されやすい、という話もある。
虐待とかまでいかなくても、自分の子どもの発達は「正常」なのか(遅れているのではないか?)と心配する母親は普通だし(むしろそういうことを気にしない母親の方が、今の日本では少数派かも)、人間はあまりにも当たり前に子ども「値踏み」する。
サルはそういう心配とは無縁ってことだよな。それはある意味、すごいことだ。
私も自分で子育てしていて実感するけど、他の子と自分の子を比較しても意味がないし、良いことではない(少なくとも当の子どもにとっては)と多くのお母さん(お父さん)は判っているけど、ついつい比較してしまう。
他人の子とも比較してしまうけど、きっと兄弟がいたら比較しないではいられないでしょう。
ヒトにとっては、比較することがあまりにも当たり前だから、「子どもを比較しないサル」ってある意味、衝撃的。

著者は、「ヒトの母親は子育てに長い時間と多大な労力を費やすので、少しでも見込みがない(無事成長して子孫を残せる見込みが薄い)子は育てない。条件の悪い子を育てるより、もっと条件のよい子を育てる方を選ぶ」という選択をした母親の方が、過去の厳しい環境の中で、より確実に子孫を残すことができたのだろう、としている。
(そういう選択をしなかった母親は、結局子孫を残せなかった)
一見、無残で残酷な話に聞こえるけど、実際には存在しない理想の聖母を思い描いて、子育て支援の制度を作るよりは、「人間の母親は子を選別する性質がある」という前提で、制度を作った方が、結局子ども自身の幸福には繋がるのかもしれない。
それにしても「聖母(どんな子でも慈愛深く育てるの)」は、じつはサルで、ヒトではないというのは、見ようによってはかなりシュールな絵になりそう…
オランウータンのお母さんは、他の子とも兄弟とも比較せず、その子だけに対して6年も8年も愛情を注ぎ続けるってことだよなぁ。
少なくとも子どもにとっては、「理想のお母さん」かもしれない。


他にこの本でおもしろいなと思ったのは、
(1)現代の一部の国での少子化は、(生物としての)ヒトの母親の性質を考えれば、当然の帰結である
(2)<新説>おばあさん仮説
にまつわる話。

(1)ヒトの祖先がおかれていた厳しい環境では、女性自身が社会的地位を向上させることは、子どもの生存率の向上に直接寄与した。現代の女性が、社会的地位を向上させることに熱心なのは当然である。過去にはそうしたことに熱心で、能力の高かった女性こそが、確実に子孫を残すことができたから、という理屈。

「バースコントロールがなく、女が独身が貫いたりしなかった世界では、女のランクと母親としての繁殖成功は完全に相関関係にあった。だが、自然は野心の一人歩きを防止するセーフガードをあらかじめ作っておかなかった。子をもうけ、生き残らせ、反映させる結果につながらないようなステータス追求にエネルギーが向くとは考えてもいなかったのだ。ステータスと子の生存が切り離されたいま、達成志向のとくに強い女性はいずれ淘汰されてしまうのだろうか?私たちの種がそれだけ長く存続すれば、そして職場の環境が変わらなければ、おそらくそういうことになるだろう。」(上巻p161)

私達の祖先の環境では、女性は「少なくとも一人の子が生き延びて繁殖できるようにと行動していた」。常により多くの子どもを育てようと行動する女性は少なかった(過去には、後者より前者の方が、子孫を確実に残すことができたから)。
ここを読んでいて、日本の少子化よりも、最近の、ナショナル・ジオグラフィック誌の「少子化とメロドラマ」(2011年9月号)という記事を真っ先に思い出しました…
国の人口抑制策もなく、女性たちがみずから「産まない」決断をして、50年間で出生率が3分の1になったブラジル。
「マザー・ネイチャー」の第5章とナショジオの上記の記事を読み合わせると、説得力あります。

しかし著者がいう「少なくとも一人の子が生き延びて繁殖できるようにと行動していた」というのは、少し厳しすぎる値のような気がする。
でも、自分が産む子どもの数を調整できる立場にある現代の女性が、理想とする生涯に産む子どもの数が、せいぜい2〜3人、という現実を考えると、あながち著者の主張も厳しすぎるとはいえないかも。
(ちなみに著者の主張の根拠は、伝統的な生活をしている、狩猟採集民族での観察がベースになっている)


(2)「おばあさん仮説」の説明は、説得力があっておもしろい。
基本的に動物は、死ぬまで繁殖するが、ヒトでは、閉経後(繁殖を停止した後)も女性は長生きする。どうしてヒトでは閉経後も長生きする、という特殊な性質が進化したのか?ということを説明する仮説が「おばあさん仮説」。
「ヒトでは、高齢の女性にとって、繁殖のリスクが高い(ダウン症の発生率が上がるなど高齢出産はリスクが高い)ので、自身の繁殖を停止して娘(血縁者)の繁殖を手助けした方が、結果的により多くの子孫を残すことができた。だから閉経後も女性が長生きする、という性質が進化した。」というような内容だけど、実際にこれを支持する研究結果がほとんどない(おばあさんがいる方が孫の死亡率が下がる、などを示した研究がほとんどない)ので、疑問視する意見も多い。
しかし著者は、次の3つを区別して考えるべきだ、と主張している
(1)閉経後も女性が長生きする(数十年生きる)
(2)(1)の女性が血縁者(娘・孫など)に利他的にふるまう(食料を供給するなど)
(3)年老いた女性が集団にとって重荷(コスト)にならない(おばあさん自身が、自分の食べ物を自分でとってこられる)

そして、著者が提案するのが次の仮説。
「祖母の時計仮説」:人間の閉経後の寿命が長いのは、長い幼少期の副産物である。(繁殖がもはや不可能となったあとまで人間を生きつづけさせる遺伝子が選択されてきた+成熟を遅らせるよう胎内の代謝の調整が選択されてきた。)
たまたま閉経後も長生きできる女性がいたら、その女性は血縁者に対して利他的にふるまった方が、より多くの子孫を残せただろう。
現代の狩猟採集民でも、年老いた女性は働き者で、最も熱心に大量の食物を採集する→年老いた女性は集団の他のメンバーが養わなければならない、コストではない(むしろ食物を供給してくれるメリットである)。

従来のおばあさん仮説は閉経そのものの説明を目的としていたので、うまく現実にあてはまらなかったのではないか?閉経後の長寿は長い幼少期の副産物で、そうしてたまたま長生きするようになった女性が、血縁者に多大な利益をもたらしたのではないのか?というのが著者の主張。
説得力ありました。

これに限らず、ヒトは物事の因果関係を読み取ろうとする性質があるので、いくら進化が「結果論でしかない」とわかっていても、何かの性質が進化するのは、「適応的意義(進化によって得られるメリット)」があったのではないか、と考えてしまいがち。
今、「目的(適応的意義)」にかなっているように見える性質は、単に別な性質に付随して進化した、副産物にしか過ぎないのかもしれないのに(そして今の環境では、たまたまその性質が「目的」にかなっているようにみえるだけ)、ついつい現在の「機能」に目を奪われてしまうのかも。
そのヒトの当たり前の性質を乗り越えて、進化の真実に迫るのに有効なのは、多様な価値観をもつ科学者が増えることと(あるグループの人達にとって「当たり前」の価値観、目的意識は、別なグループの人達には「当たり前」ではない)、ちょっとしたきっかけで発想を転換できる「センス」なんだろうなぁ。


他にも一夫多妻では一夫一妻よりも子ども死亡率が高い、といった話も興味深かった。
「目的は、父性に一点の曇りもない子を−それも多くの子を−作ることであり、母親にどれだけコストがかかろうがかまわないのである。」(上巻p47)


引用がしっかりしているので、この先も色々突っ込んで学ぶのに役立ちそうです。
惜しいかな、普通のお母さん向けではない。(文体は読みやすいのですが…)

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