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zoom RSS タンジュン・プティン国立公園のオランウータン

<<   作成日時 : 2008/09/11 11:51   >>

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タンジュン・プティン国立公園(Tanjung Puting National Park)のオランウータンに関する報告&感想です。

タンジュン・プティン国立公園内では、現在、孤児のオランウータンを養育するリハビリテーション事業は行われていません。
現在は公園の外に、孤児を養育しているCare Centerがあり、リハビリした個体は別な保護区(野生のオランウータンが生息していない場所)に放しています(詳しくはOFIのウェブサイト参照)。

公園内で行っているのは、過去にビルーテ・ガルディカス博士とNGOのOrangutan Foundation(以下OF、URL:http://www.orangutan.org/)がリハビリテーション事業によってリリースしたオランウータンを対象に、園内3(4)ヶ所の給餌場所で1日1回、給餌が行われているだけです。
給餌場所と時間は以下のとおり;

1.Camp Leakey: 14時
2.Pondok Tangui: 9時
3.Tanjung Harapan: 15時
+Pondok Ambung?

一番上流に位置するのが1.Camp Leakey、一番下流が3.Tanjung Harapan。ほとんどの観光客はCamp Leakeyを訪れるので、ここは午後には大混雑。Tanjung HarapanやPondok Tanguiを訪れる観光客は多くないようです。

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(写真)Camp Leakeyの船着き場。観光客が乗ってきた船でいっぱい

私が行ったのはCamp LeakeyとTanjung Harapanだけですが、Tanjung Harapanのオランウータンは比較的人慣れしていないようで、森の果物が豊富な時期には給餌場所にもほとんど来ないそうです。

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(写真)Tanjung Harapanの給餌台

今までもBBCなどの映像を見て、大体の様子はわかっていたのですが、思っていた以上にオランウータンと人の距離が近くて、制限が少ない(というかない?)。
すでに何回かCamp Leakeyに来たことがある同行者によると、私が行った日は比較的オランウータンが多かったようですが、ざっと数えただけでもキャンプ周辺に最低でも10頭(大きなオトナ雄2頭を含む)いました。

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(写真)大きな雄のオランウータン(反対側の壁ぎわにいるのは雌)

一応、OFのスタッフもいるようですが、セピロクのレンジャーのように制服を着ているわけでもなく、観光客を連れてきているガイドとほとんど区別がつきません(ガイド達もセピロクのようにガイドの認証カードを首から提げているわけではない)。
観光客は比較的無防備にオランウータンに接近しているようでしたが、ガイドやスタッフらしき人達の話や様子を見ていると、危ない(よく人に危害を加えたり、物をとったりする)個体と、危なくない個体がいるようでした。

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(写真)観光客、ガイドとオランウータン

Camp Leakeyの給餌台は、キャンプからさらに1.5kmほど森の中を入ったところにあります。キャンプでウロウロしていた個体の一部は、給餌の時間には給餌台までトレイルを歩いて(ロープなどの設備はない!)向かっていました。

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(写真)給餌台に向かってトレイルを歩く母子のオランウータン(プリンセス?)

私が給餌台をのぞいた時は、キャンプにいたのとは別な個体がさらに最低7頭(母子2組を含む)いました(もっといたかもしれませんが、十分確認する時間がなかった)。
給餌台のまわりにいる観光客の数は、(午前の)セピロク比べれば微々たるもので、スタッフを入れても30〜40人程度でした。ただしまだキャンプ周辺をウロウロしていたお客さんもいたので、実際にCamp Leakeyに来ていたのは50人以上いたと思います。

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(写真)Camp Leakeyの給餌台周辺の観光客


さて感想ですが、まず第一印象として、「すごい危ない場所」だと思いました。過去にジュリア・ロバーツがここで雄のオランウータンに襲われそうになりましたが(「IN THE WILD ~野生への旅~オランウータン」:末尾参照)、同じようなことが起きているのでは?、と思いました。
帰り道にちらっと見た、スタッフが大きな雄をからかったら、怒って追いかけてきて、あわてて逃げている姿とか、ゾッとしました(もちろん、彼らには慣れっこなのでしょうが)。
いや〜私は、ここでは調査・研究はしたくないです。

で次に思ったのは、「ここでOFが給餌をやめてはいけない(少なくとも管理から手をひいてはならない)」ということです。
スマトラ島にはBukit Lawangという、過去にオランウータンのリハビリテーション事業をやっていて、その後事業主体だったインドネシア政府とWWFが手を引いてしまったため、現在無法地帯(誰もほとんど管理していない)状態になっている場所があります。
ここも有名な観光地で多数の観光客が訪れますが、きちんと管理をしている組織がないので(一応、公園管理局が定期的な給餌は行っているようですが)、ガイドや観光客が手渡しでオランウータンに食物をあげたり、触ったりしているそうです。

しかもこの前の国際霊長類学会では、Bukit Lawangのオランウータンが2頭、共食いをしていた、という衝撃的な発表までありました。

Dellatore D. 2008. Behavioural health of reintroduced orangutans (Pongo abelii) in bukit lawang, sumatra, Indonesia. 22nd Congress of the International Primatological Society. Edinburgh, UK: Primate Society of Great Britain. p 300.

2頭の雌が、自分の子供の死体を食べていた、子供の死亡の原因はわからない(病死か事故死か、母親が殺したのか)、という話です。
発表者のDave Dellatore(Sumatran Orangutan Society)は、「共食いの原因をはっきり断定するのは難しいが、状況から鑑みてチンパンジーでの子殺しで指摘されているような適応的な行動として説明するのは難しい。リハビリテーション事業の影響による異常な行動である可能性が高い。Bukit Lawangの今のような無法状態は一刻も早く改善すべきだ。」と訴えていました。

Camp Leakeyを見て、私はここでもしOFが管理するのをやめたら、間違いなく第二のBukit Lawanになるだろう、と思いました。
OFが給餌をやめても、誰かが(公園管理局か地元の人か旅行業者か)給餌を続けて、多くの観光客は変わらず訪れるでしょう。
そして管理者のいない状態で、無秩序な餌やりやオランウータンとの接触などが冗長されるに違いありません。

特に気になったのは、多くの子供のオランウータンの存在です。母親がリハビリテーション事業出身で、子供自身は母親に育てられている個体が何頭もいます(インフォメーションのセンターの情報を見る限りでは、42頭以上の第二&三世代が誕生している)。人間に育てられているわけではありませんが、給餌に慣れ、人や人工物に慣れています。
たとえ数十年後にリハビリ出身の個体が全て寿命を全うしたとしても、これらの次世代がづっとここでは続いていくのでしょう。
Camp Leakeyでの給餌はいつまで続くのか?というかやめることは可能なのか?給餌をやめたうえで管理する、という選択肢があり得るのか?

こうした観光地化されたリハビリテーション事業については、以前から批判があり、1990年代からは

・リハビリテーションセンターは基本的に観光客に公開しない
・野生のオランウータンが生息している場所にはリリースしない
・ヒトとの接触はできるだけ制限する

といったルールを掲げた新しいセンターが何カ所か建設されて運営されています(現在のOFも基本的にはこの方針にのっとって活動している)。
しかし、Bukit Lawanの例をみていると、問題があるリハビリテーション事業は中止すればいい、という単純なことではなく、「後始末」にも多大な労力が必要だということがわかります。
オランウータンの寿命は野生でも50年以上だと言われています。リハビリテーション事業が始まったのは1960年代。まだまだ生存している個体がいる上に、第二、第三の世代も生まれています。

リハビリテーション事業を始めた人達は、純粋に目の前で傷ついているオランウータンを救いたかったのだと思いますし、その気持ちと行為を否定するつもりはありません。
そして後にこんなにも長く甚大な影響を及ぼす事業になることを想像できなかったとしても、当時の状況を考えると責められるものではないと思います。
むしろ、最も責められるべきなのは、オランウータンを見る為にリハビリテーションセンターを訪れ、無邪気に餌やりや触れあいを楽しもうとする観光客と、そうした行為を暗に助長している観光業界ではないでしょうか。
もちろん、研究者や保護活動を行う団体が、リハビリテーション事業の負の側面を十分に伝えきれていない面もあると思います。

そこで、オランウータンのリハビリテーションセンターに観光で行こうと思って、このブログにたどりついた皆さんに、とりあえずはこのことを伝えたいと思います。
リハビリテーションセンターを見学に行くのなら、オランウータンのリハビリテーション事業がなぜ行われているのか、あなたの振る舞いがオランウータンにどんな影響を及ぼすのか、考えてみて下さい。
例えば、オランウータンと人との接触は、病気の伝搬を助長します。例え身体接触を伴わなくても、物を介したやりとり(木道を共用することでさえ、物を介したやりとりです)や物理的な距離が近いと病気の伝搬を防ぐことはできません。
また未だにリハビリテーション事業に保護されるオランウータンがいる、そうした傷ついたオランウータンを生み出している元凶−木材資源を得る為の伐採、パームオイル農園に変える為の森林伐採、ペット目的の密猟−は、私たちの日本での日々の生活とも密接なつながりがあることまで、考えてもらえるのなら、リハビリ事業を公開する意味はあるのかもしれません。

オランウータンのリハビリテーション事業の影響の甚大さ、特に一旦観光地として確立されてしまった後の管理の難しさを、リハビリテーション事業に関わる者として、まざまざと思い知らされた一日でした。
少なくともこの事業に関わった人間は、彼らの生涯と生存に責任を持ち続けなければならないと思いますが、それはこれほど長期にわたって背負い続けなければならない、重い代償だったとは。
そんな暗澹な気持ちで、私はCamp Leakeyを後にしました。



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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
たくさんの報告、ありがとうございます。
長い間、リハビリセンターは、いいものだと
思ってきましたが、現実は違うのだということがよくわかりました。
鈴木先生他、何人かの人たちの話を聞いて、少しずつは理解してきてはいるのですけどね。
そう考えるとテレビでたまにやっているタレントをリハビリセンターに行かせて触れ合わせている番組は罪なことしていますよね。

それにしても、今回のお仕事お疲れ様でした。
orangutansmomo
2008/09/11 17:07
orangutansmomoさん、コメント&ねぎらいの言葉、ありがとうございます。
リハビリセンターには問題もいっぱいもありますが、やっぱり今のところは必要な存在です。
リハビリセンターがなければ、保護されたオランウータンの行き場がなくなってしまいますから。
でも撮影する側は、安易にリハビリ=いいものだ、というストーリーしか作らないんですよね。
もちろん、リハビリセンター側も批判に神経質になっていて、批判的な内容の撮影は断る、ということもあります。
だからといってそれに迎合してしまって、いいのでしょうか。
セピロクにいた頃、世界中のテレビ局(テレビ制作会社)が判で押したように同じような内容を撮影していくのを見る度に、がっかりさせられました。
nouko
2008/09/11 20:57

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